宋靖鋼先生 「中文導報」新聞寄稿:  「夏の皮膚病に対する漢方の予防と治療」

漢方養生堂 宋靖鋼先生が 日本最大の中国語総合新聞「中文導報」に「夏の皮膚病に対する漢方の予防と治療」について寄稿致しました。四方を海に囲まれ、湿度の高い日本の夏は皮膚病が特に多く見られます。こちらに日本語版を掲載いたしますのでどうぞご参考ください。

「夏の皮膚病に対する漢方の予防と治療」 

宋靖鋼:漢方養生堂 医学博士・中医師 日本中医協会 副会長

熱邪と湿邪は皮膚病を引き起こす重要な原因です。日本は温帯と亜熱帯に位置し、周りを海に囲まれているため、夏季には多くの地域で大雨や高温が見られ、湿度も高く大変蒸し暑くなります。日差しは強烈で、日焼けによる肌トラブルも多く発生します。これらの事から日本の夏は皮膚病が多発しやすい季節といえるでしょう。

漢方医学の理論では、暑さは陽邪に属し、昇散の性質を持ちます。身体の代謝を亢進させやすく、余分な老廃物を生んで人の正常な生理機能をかき乱します。“暑多挟湿”とは「暑さの中には湿が含まれることが多い」という意味です。「湿」とは身体の中に留まる余分な水分のことで、重く、濁って、粘質性があるという性質を持ちます。体内に長く停滞して排泄されない場合には病気を引き起こします。また、夏季の燃えるような暑さで人は情緒が興奮しやすく、いらいらして、体内の代謝異常を引き起こします。精神状態がバランスを失う事も皮膚病発症の重要な一因です。漢方医学ではこのように皮膚病を全面的にとらえる(全体観)ことで予防と治療に良い効果を残しています。それでは次に夏季によく見られる皮膚病とその予防法、治療法についていくつかご紹介します。

1.あせも

あせもは夏季に多く発生します。夏は気温が高くよく汗をかきますが、湿度が高く蒸し暑いために汗が蒸発せず、暑さと湿気で肌が蒸されて毛穴がふさがります。そのため、汗が出ず汗腺管が破れて周囲組織に漏れ込み、皮膚の浅い部分に炎症を引き起こします。これがあせもです。あせもは頭部や顔、身体のしわがある部分に多く発生します。臨床では「粟の穂先」のように小さく盛り上がった丘疹や小水疱が現れ、ひりひりした痛みと痒みを伴います。掻いて感染してしまうと炎症がひどくなり、皮膚が損傷して化膿します。ひどい時には頭痛、めまい、倦怠感、食欲不振などの全身症状を伴うこともあります。漢方医学では、この病気は暑邪と湿邪が結び付き、熱邪で毛穴が閉じてしまうことで生じると考えます。食積(食べ過ぎ)によって内熱がこもっている人、暑邪に当たってしまった方、また成長期で代謝の盛んな小児などが発病しやすいといえます。治療の面では、症状が比較的軽い場合は薄荷(ミント)、菊花、蓮の葉、緑茶などを煎じてお茶の代わりに飲むと良いでしょう。また痒みがひどい時は漢方薬の清暑益気湯を飲むことも良いでしょう。炎症がひどい場合には十味排毒湯の服用も有効です。馬歯莧、苦参、金銀花、黄芩、白芷などを煎じた水で患部を洗ったり、冷湿布したりすることも痒み止めや化膿止めの効果があります。漢方医学の考えでは「治未病=未病を治療する事」を大変大事に考えますので、事前にあせもの発症を予防する事もとても重要です。以下の点をしっかりと行うことで効果的に予防することができるでしょう。まず、室内の温度を下げ除湿を強化して、長期間にわたり蒸し暑い環境で生活する事を避けます。肌着は通気性の良い布地を選び、着衣はできるだけゆったりとしたものにしましょう。皮膚を清潔に保ち、シャワーはできるだけぬるま湯を使用し、冷たすぎる冷水や熱すぎるお湯は避けます。入浴後、汗が出やすい部分には、乾燥や除菌効果のある粉薬や制汗スプレー剤をかけます。スーパーやドラックストアには多くの製品がありますのでご自身の状態に合わせて選んでください。また、ストレスや過労を避けましょう。暑い日は外出を減らし、食事はあっさりしたものを、お酒は飲みすぎないなどの生活習慣もあせもの予防には重要です。緑豆のスープやスイカジュース、梅ジュースなどをこまめに飲むこともあせも対策として良いでしょう。

2,湿疹

湿疹は皮膚の表皮及び真皮の浅い層でよく見られる炎症性皮膚病で、病気の原因は人体のアレルギー反応と関係があることが多いです。発症する人の層も大変広く、老若男女を問わず発生する可能性があります。日本では湿疹という言葉が皮膚病の代名詞になっているといってもよいでしょう。

湿疹の症状で最も多いのは皮膚の丘疹と痒みで、紅斑、水疱、浸出、びらんなどを伴い、多形性、左右対称性、再発しやすいなどの特徴があります。治療が適切でないと慢性湿疹になり、患部の皮膚は厚く、粗くなり、激しい痒みやかさぶた、色素沈着などの症状が現れて完治が難しくなる方もいます。

漢方医学では、この病気は飲食の不摂生による脾虚湿困(脾の機能が弱り湿に犯される)、あるいは、情緒不快という内因のために、内に鬱火が発生、加えて外気の熱毒にも犯されることで内外の熱湿邪が結びつき、皮膚の状態を乱すと考えます。夏は気温が高いせいで、気持ちが苛立ったりせっかちになりがちですし、胃腸の機能も乱れます、その上、生ものや冷たいものを好んで食べることが多いことから、脾胃の機能はますます損なわれ、水液代謝が失調して体内に湿をため込みやすくなります。このことから、夏は湿疹が多くなる季節なのです。

湿疹の治療原則は健脾利湿、清熱理気を主とします。症状が軽い時は、漢方成薬のヨクニンを服用しても良いでしょう。煩躁感(気持ちがイライラしやすい)のある方は黄連解毒湯も良いでしょう。皮膚患部が赤くなり、かゆみがある時は消風散を、赤い皮疹がある時は十味敗毒湯を服用し、患部の滲出液が多い時は竜胆瀉肝湯を服用します。慢性湿疹になり、痒みが目立つ方は当帰飲子を服用すると良いでしょう。患部が乾燥し、やや赤みを帯びた状態の湿疹には黄連阿膠湯を服用することも有効です。

外用の漢方薬として馬歯莧、苦参、黄柏、白鮮皮、白蒺藜を水で煎じ、患部に湿布することも良いでしょう。滲出液がひどい人には適切な濃度のホウ酸湿布をすることも有効です。

湿疹体質の方は生活習慣を見直し、改善に努めましょう。夏は汗を多くかくことで湿疹の発病を誘発しやすくなるため日常生活の調節が必要です。過労を避け、適度に運動し、リラックスして、穏やかな情緒を保つことが大切です。飲食面では、あっさりした食生活を心掛け、食べ過ぎには気をつけましょう。辛いものや刺激物、匂いの強いものはできるだけ避けます。(唐辛子、ニラ、ライチ、マンゴー、ドリアン、羊肉、うなぎ、海老、酒、コーヒーなど)また、アレルギーを起こしやすい化学物質への接触も避けましょう。

日本は海産物が豊かですが、食べすぎると湿疹を誘発しやすく、湿疹体質の方はできるだけ控えるべきでしょう。子供には焦三仙30g、陳皮30gを水で煎じた後、適量の糖分を加えて飲ませることで湿疹の予防に役立ちます。

  1. 日光皮膚炎

日光皮膚炎は漢方では「日晒瘡」と呼ばれ、過度の日光曝露の後に発生する急性光毒性炎症です。日光皮膚炎は、顔、首、肩、腕、背中など、日光に晒されやすい場所に発生します。日光に数時間晒された後、皮膚の露出部分に薄片状の紅斑が見られ、火傷やかゆみ、圧迫痛、少量の丘疹、さらに水疱やびらんを伴います。通常、症状は日光に当たった翌日に最も重くなります。 その後、紅斑は徐々に暗い赤色または赤褐色になり、落屑を伴うか、角質層が脱落し、約1週間〜10日で回復となり、皮膚上に残る褐色の色素沈着は徐々に薄くなって消えます。 炎症範囲が広い場合や重症の場合には、発熱や悪寒、疲労感、頭痛、吐き気、時には動悸、さらにはショックなどの全身症状を引き起こすこともあります。漢方医学では、この疾患は日光に対する先天的な因子が原因で、光毒が皮膚に侵入し血熱が蓄積、気血の流れが阻害されることで、紅斑、腫れ、灼熱感が現れると考えます。また、皮膚に熱毒と内部の湿が合わさると水疱やびらんを引き起こすこともあります。

治療は、病状が比較的軽い場合、漢方薬の内服はせず、生薬の側柏葉、紫草、苦参、馬歯莧、地丁を水で煎じて患部を湿布、あるいはカラミンローションを塗ります。皮膚が赤く腫れて丘疹が多く、熱痛が激しい時は白虎湯を服用します。赤色または紫暗色の斑点が広がり、焼けるような灼熱痛、発熱、頭痛が見られる場合には地楡槐角丸の使用が良いでしょう。赤く腫れて、水疱が密集、また水泡が破れた後の滲出液が多く、びらん状態や痒み、灼熱痛がある時には三黄瀉心湯を服用することも有効です。

予防面では、日差しが強い時は屋外で長時間日に当たることを避け、外出前には肌の露出部分に日焼け止め剤を塗り、できるだけ長袖で薄い色の衣服を着ましょう。日傘をさしたり、つばの広い帽子をかぶったり、手袋の使用も良いでしょう。特に色白の方、乾燥肌の方はより注意して予防してください。

飲食面では、刺激の強いもの、海鮮類などの生もの摂取は控えめにし、緑豆のスープ、スイカジュース、金銀花茶、芦根(ろこん)茅根(ぼうこん)茶、冬瓜スープなどを摂るのが良いでしょう。注意すべきなのは、一部の薬品や食品には日光皮膚炎を誘発しやすいものがあることです。 例えば薬品ではクロロアジン、スルホンアミン、テトラサイクリンなど、食品ではシロザ、ホウレンソウ、アブラナ、ヒユナ、タイサイ、セロリ、ナス、ジャガイモなどが挙げられます。これらの食品摂取はできるだけ減らすと良いでしょう。

 

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